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DIRECTOR’S STATEMENT

僕は、東京を愛している。同時に僕は、絶望している。

進化しすぎてしまった東京という街に。

いつの頃からか、東京は進化しすぎた。

現代文明の発展速度に、住んでいる人々の精神が追いついていないと感じる。

その結果、想像力や審美眼は減退し、無責任で無自覚な悪意が蔓延している。

そして「東京」という都市の概念は、そんな現代だったり現実の代名詞として使われる。

20世紀最後の年に撮影し21世紀最初の年に公開した『PRISM』は、90年代の総括として“自己完結”という概念をキーワードに描いた。

自己完結しているのに他者と関わることの矛盾は、ゼロ年代に入り“無自覚な悪意”として量産されていくことを、そしてそれが「東京」という現実なのだと、実感を伴って予感していたのだと思う。

次の長編『emanon』製作が暗礁に乗り上げた後も、再び長編映画を撮る機会を四六時中模索しながら僕は、そうした「東京」を数多くの短編で描き、8年間を過ごした。

2008年6月6日、僕が最も愛した映画館・シネマアートン下北沢が、不可抗力で無理やり閉館させられた。悔しかったし、許せなかった。

だから僕は映画人有志代表として、シネキタ再生運動を展開した。

しかし、あらゆる手を尽くしたが、想いは届かなかった。

市場原理主義を加速させる高度情報化社会の力に屈服し、惨敗したのだ。

少なくとも僕にはそう感じられたし、映画や映画館への愛情など、そういった力の前には無力なのだと思い知らされた。

いま思えばあの時僕と仲間たちは、絶望していたのだと思う。

東京にも、映画にも。

しばらくして、ショーン・ペン『イントゥ・ザ・ワイルド』を観た。

こういう映画を撮ろうと思っていたわけでも、撮りたいわけでもない。

しかし、この映画が持っている本質が、激しく僕の身体を貫き、無自覚な悪意に負けない意思を喚起し、失いかけていた情熱を暴発させた。

僕は映画監督だ。映画は、第一義的に映画である。だから映画監督は、映画を作ればよい。

そこに立ち返ることにした。それが本当の始まりだった。

『OUR BRIEF ETERNITY』は、その言葉の意味そのままに物語を作った。

そして同時に、僕にとっての「東京」であり、ゼロ年代を強烈に意識して作ることだけは決めていた。

僕の創作のコアは、映画に人生を捧げると決めた20年前から微塵も変わっていない。

絶望と、怒りと、それゆえに生じる孤独感だ。

ただ、絶望があるからこそ理解できるものがある。

希望だ。

フィルムはネガがあるからポジが焼ける。

それと同様に、絶望を知って初めて、希望を描けるのだと信じている。

それこそが僕にとってのロックであり、ラブ&ピースなのだと、本気で思っている。

きっと僕はこの「東京」という街のどこかで、誰かに抱きしめられたいのだと、思う。

だから、観た人が、そんな気持ちになるような映画を作った。

それが希望なのだと思った。

たとえ短い永遠だったとしても。

takuyafukushima

福島拓哉 Takuya FUKUSHIMA ■監督 DIRECTOR

1972年9月19日、埼玉県出身。名古屋大学在学中より映画制作を開始し、イベントを手がける。石井岳龍(聰亙)監督『ユメの銀河』に演出助手として参加。96年、自分たちの作りたいものを作る場として、クリエイターズユニットP-kraftを設立。01年、長編劇映画『PRISM』で劇場デビュー。レイト枠の動員記録を樹立する。翌年には、GWロードショーへと発展し、インディペンデントの金字塔を打ちたてる。06年のポレポレ東中野開催の「クロス・ザ・レンズ ~福島拓哉特集」は、“新時代のキーパーソン”を求める観客を集めた。『アワ・ブリーフ・エタニティ/OUR BRIEF EtERNITY』は8年ぶりの長編劇映画監督作品。P-kraft の若手を育成する傍ら、『裸 over8』ではアソシエイト・プロデューサー、『女子女子 over8』ではエグゼクティブ・プロデューサー。

また、『SPICA』(白川幸治監督)、『東京失格』(井川広太郎監督)に主演するなど俳優としても活動。詩人でもあり、アンダーグラウンド・オルタナティブ・サイケデリック・ポリティカル・パンクロック・バンド「Beer Lovers Party Tokyo」のボーカルでもある。

 

FILMOGRAPHY

■『TIME IS ON MY SIDE』97年/55min/DV/カラー/スタンダード/監督・脚本・音楽・出演/PFF入選

■『世界の終わりはあなたと一緒に』99年/33min/DV/カラー/スタンダード/監督・脚本/みちのく国際ミステリー映画祭オフシアター部門上映など

■『JAM』99年/30min/DV/パートカラー/ワイド/監督・脚本・主演/水戸短編映像祭審査員奨励賞、PJ映像祭ベストキャラクター賞受賞など

■『PRISM』01年/98min/DV/カラー/ワイド/監督・脚本/劇場公開/ソウル国際クィアフィルム映画祭招待、日本・北欧ニューシネマ映画祭招待など

■『自由』03年/37min/DV/カラー/スタンダード/監督・脚本・主演/劇場公開/タイ短編映画祭招待など

■『the point(2,8,16)』04年/16min/DVCAM/カラー/ワイド/監督・脚本/06年公開/タイ短編映画祭インターコンペ、ゆうばり国際ファインタスティック映画祭フォーラム部門

■『クロス・ザ・レンズ』05年/75min/カラー/ワイド/監督・撮影・編集/06年公開

■ 『days of』06年/9min/8mm→DVCAM/カラー/ワイド/監督・原作・脚本/07年公開(オムニバス『over8』の1本)

■ 『裸 over8』07年/アソシエイト・プロデューサー/劇場公開

■『女子女子 over8』08年/エグゼクティブ・プロデューサー/09年公開

■『アワ・ブリーフ・エタニティ / OUR BRIEF ETERNITY』09年/105min/HDV/カラー/ワイド/監督・脚本・プロデュース/東京国際映画祭ほか

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