REVIEW
Marc Saint-Cyr, The Toronto J-Film Pow-Wow
OBEは、たぐいまれなエンターテインメントだ。この映画はあるいはSF映画と呼ばれるかもしれないが、そのようなひとつのジャンルの枠や制限にはまらないスケールの映画である。この映画を特別なものとしている一つの指標は、ユニークな主人公テルだ。彼はぼろぼろのコートに身を包んだ無職の怠け者で、死や時間などの哲学的なことに思いをはせ、あてもなく東京をさまよい酒をのむ。彼はナレーションを通じ、世の中の日常に飽き飽きしていることを説明し、彼の世の中への幻滅や孤立感が映画を通じて彼のキャラクターを描写している。この情報はキツネという、チェ・ミンシクに恐ろしく良く似た雰囲気をもつ、ミステリアスな黒い男によってテルに伝えられる。彼は自身をエマノンとよばれるウイルスの専門家であると名乗った。彼がテルの前に登場することは、少し都合がよすぎるのではないかと不満を言うひともいるかもしれないが、解説が必要なシーンにおいて彼は重要な役割を果たす。特に彼は比類なく風変わりであるため、映画を通じて何度も登場する。監督・福島拓哉は、登場人物たちのやり取りの中で、臨場感を演出するためラフな撮影スタイルを採用している。これらのシーンは、彼らのその瞬間におけるリアルな雰囲気を演出している。とくに、テルが彼の仲間とそれぞれの酒をもって語り合うシーン、そしてもちろん彼とミオが次第に関係を回復させるシーンにおいてだ。人によってはあらすじをみて、この映画を『ボディ・スナッチャー』のようなタイプの映画と連想してしまいそうであるが、カジュアルで親密なスタイルのこの映画は、いわゆる典型のSF映画とは一線を画したものである。ウイルスは、監督の福島(と、共同脚本の迫田)が人間の記憶や愛、絆を探索し、表現するために存在している。これは、映画『エターナル・サンシャイン』を思い出させる。(ミシェル・ゴンドリーの表現は含まれていないが。)この映画のテーマは、テルとミオとの間に再び生まれたロマンスによって、効果的に描写されている。俳優の草野康太と呂美は互いに素晴らしい化学反応を起こし、二人の共有するシーンは本物だ。ミオは特に興味深いキャラクターだ。彼女があっさりとボーイフレンドをふるシーンなどを通じ、彼女自身の無鉄砲さ、衝動的な行動、自己嫌悪、時折見せるかわいらしさといった様々な一面を見ることが出来る。これらの性格描写から、なぜテルとミオが別れてしまったのかの理由まで想像することが出来る。日本と、世界に対してのウイルスとその効果の進展が映画の字幕の中で追跡され、見る者により大きなスケールの危機が、テルとミオに降りかかることを伝えている。映画が展開していく中で、テルは偶然にも彼の携帯に電話をしてきた匿名の女からの不思議な着信を受ける。その女は予期しないタイミングで何度も彼に電話をかけ続ける。映画の後半にかけ、人々の記憶の喪失に伴って発生する問題がより深刻化していく。特に、感情的な不安が「二次的な災害」を起こしていく。ミオに捨てられ、破滅へと向かった彼女のボーイフレンドが、ひどい損害を受けたものの一人だ。映画の終盤は、フォーカスをテルとミオ、そしてその他の登場人物に残したまま、世紀末を彷彿とさせる景色にシフトしていくシーンが夢のようで方向感覚を失わせる。その中で、それぞれのキャラクター達の特定の瞬間にフォーカスしたシーンがモンタージュのように動いていく場面が印象的だ。Kursantによって生み出された、素晴らしく、ムードに満ちたサウンドトラックが映画に色を添えている。OBEは、思いもよらない角度から人間関係とは何か?を探求した、洞察に満ち、丹精が込められたすばらしい映画である。2001年の長編『PRISM』に続き、福島拓哉は今回も素晴らしい仕事を成し遂げた。本作品がこの才能あふれる映画監督の名を世間に知らしめるものとなることを、心から期待している。
Review: Our Brief Eternity – SCFF 2010トロント・新世代映画祭にてPam Fossenによるレビュー
7月下旬に新世代映画祭にて上映されるカナディアンプレミアにおいて、福島拓哉は大変興味深い映画、OBEを作った。ある点において、私はこの映画をエッセイのような映画と言いたい。なぜならば、登場人物たちの人生に対しての思考、恐れ、人間関係、そして記憶の本質について語られるからだ。また別の視点においては、テルとミオのロマンティックな関係を中心に繰り広げられるドラマティックな映画でもある。しかし、SF映画として、これらすべての話をひとつの作品として、見事にまとめあげている。テルとミオ、二人の記憶をめぐるストーリーをみることにより、テルのナレーションを聞くことにより、そして、彼らの友人たちのそれぞれの人生の歩み方をみることにより、登場人物たちの人間性がより興味深く、魅力的に見えてくる。しかし、私がこの映画で心奪われたことは、風変わりな生物学者、見知らぬ女からのミステリアスな電話、たばこを吸う、怪しげなはげ頭の男、恐ろしく長く、いや、むしろ丹念に作られたテルとミオのセックスシーンといった、予期しない、説明が出来ないようなもの中のにある。私はまた、その芸術的映像に魅了された。都市を舞台とした映画のため、美しい景色が多いわけではない。しかし、都心のビルたちは美しく映え、フレームワークは精巧で大変興味深い。この映画を見て二日たったにもかかわらず、まだ、この映画が私に何を語りかけているのか、どんな意味があったのかが、正確にはつかみ切れていないことを告白しなければならない。そして今もまだ、それについて考えている。だがそれは決して退屈という意味でも、すべてのことが明確でないことに当惑しているわけでもない。本当にこれは興味深いことだ。